米国の映像産業の中心地、ハリウッドが息を止めた。16万人の俳優が加入する労働組合がネットフリックスなど製作会社側と進めてきた契約条件を巡る交渉が決裂し、労働環境の改善を求めて5月からストライキを続ける1万人超の脚本家に加わった。2つの組合による63年ぶりの大規模な職場放棄は、映像メディアの主役となったインターネット動画配信サービスの未熟さを映し出す。
(以上、リード文)

「このストライキはマラソンになる」。5月初め、全米脚本家組合(WGA)がハリウッドで始めた抗議の行進に参加したサラ・プライスさんは直感した。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で脚本づくりを学び、放送局での仕事を得て7年。動画配信サービス向けの番組制作が増えるなかで、自身も周囲も安定しない雇用形態や報酬に不安を抱えていた。「今のままでは将来を描けない。より良い職場に戻るために闘う」
サラ・プライスさん。今の雇用・報酬体系では「家庭を持つ自信がない」と話す
ピケを続けて2カ月半、プライスさんの「伴走者」は1桁増える。16万人のメンバーを抱える全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)との交渉で折り合えなかったとして、ストライキ入りを決めたのだ。初日の7月14日にはネットフリックスの社屋前で赤と黒の看板を掲げる脚本家たちに、黒と黄色の看板を携えた俳優らが合流。同社のドラマ『令嬢アンナの真実』に出演するクリス・カフェロさんは「ビジネスモデルの変化を契約に反映すべきだ」と叫んだ。
映像産業の主要な組合が2つそろって職場を放棄するのは1960年以来となる。演者を撮影できなくなるため、すでに低調な映画やドラマの制作は一段と滞るのが確実だ。俳優たちは完成済みの新作のプロモーション活動も休止し、映画『ミッション:インポッシブル』の続編公開に合わせて予定していたトム・クルーズさんの来日イベントは中止になった。
「この状況を望んでいたわけではない」とストライキの参加者は言う。しばらく貯金を切り崩して暮らさざるを得ず、生活は苦しくなる。ロケ地でのケータリングや撮影後の編集作業などを担う企業の仕事もなくなるため、身勝手だと非難を浴びることさえある。俳優組合のフラン・ドレシャー代表も「(テレビ・映画業界に)関連サービスを提供する他の産業も含め、世界の多くの人に影響を及ぼす深刻な決断だ」と認める。
(以下略;有料記事)