(引用)
庶民の生活を題材に19世紀末のイタリアで流行した「ヴェリズモ・オペラ」を代表する2作に、宝塚歌劇団で名をはせた演出家、上田久美子が挑む。上田は初のオペラ演出にあたり、一つの役を歌手とダンサーの2人が演じる斬新な舞台を構想。ダンサーの一人を務める元同歌劇団トップ娘役、蘭乃はなとともに意気込みを聞いた。(金巻有美)
実は初タッグという2人。「(上田は)言葉を直球で投げてくるから気持ちいい」と話す蘭乃(右)に、「『とりあえずやってみます』という気っぷの良さがありがたい」と上田=和田康司撮影

上演されるのは、
旅回り一座の座長が、浮気をした妻を公演中に殺害するレオンカヴァッロの「道化師(パリアッチ)」と、
美しい村娘を巡って元恋人と娘の夫が決闘するマスカーニの「田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)」。
共に、宗教的な規範や集団意識が強いイタリアの地方が舞台となっている。
上田は2006年、宝塚歌劇団の演出助手からキャリアを始め、劇作家・演出家として数々の話題作を送り出し、昨年惜しまれながら退団した。
上田は、2作の第一印象について「音楽はきれいだけど、話は今の時代にはつまらないと思った」と話す。だが、繰り返し見るうち、閉鎖的な社会で生きる人々の 閉塞へいそく 感、群れから外れる孤立や孤独への恐怖が「今の日本と重なる部分が多いと感じた」。
そこで、舞台を現代日本の架空の地方都市に設定。イタリア語のセリフは関西弁にした。「標準語だとおとぎ話のように感じられたものが、関西弁にした途端に面白くなった」とほほ笑む。また、日本ならではの演出を取り入れようと、太夫が語り、人形が演じる文楽の形態をヒントにした。
「道化師」でネッダ役のダンサーを務める蘭乃は、「ヴェリズモ・オペラが大衆に支持されたのは、潜在的な孤独感を人々が感じたからではないか。そういうものを感じてもらえるよう、舞台上で存分にのたうち回るのが私の仕事かな」と意気込む。
上田は「オペラを見慣れていない人が面白かったと思える」ものを目指し、「道化師」は劇中劇という構造そのものを生かす仕掛けを施した。「田舎騎士道」は、ダンサーが登場人物を演じるというより、心象風景を表現する形だという。オペラ演出の新境地を開く思い切った挑戦だが「お払い箱になる覚悟でやってます」。さばさばと語った。
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2月3日午後6時半と5日午後2時、池袋の東京芸術劇場。
指揮=アッシャー・フィッシュ。
出演=アントネッロ・パロンビ、テレサ・ロマーノ、柴田紗貴子、清水勇磨、鳥木弥生ほか。
演奏=読売日本交響楽団。
(電)0570・010・296。