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全日本柔道連盟は主催する小学生の全国大会廃止を決めた。子どものスポーツに一石を投じる英断だと思ったが、廃止の理由を知って驚いた。厳しい減量、不十分な体勢からの技や体格差による危険性、大人の勝利至上主義が問題視されていたからだ。
中高生の運動部活動について、スポーツ庁は2018年に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定した。学期中は週2日以上の休養日設定▽オフシーズンを設ける▽平日は1日2時間程度の活動▽学校休業日は1日3時間程度の活動-を推奨。スポーツ医科学の観点を踏まえてはいるが、教員の働き方改革という面もある。
ともに、大人の関与、都合が先行してルールが変えられたようでスッキリしない。スポーツの取り組み方で最も重要なのは、年代や目的に応じているかどうか、だろう。
カナダのスポーツ事情を紹介したい。特定の年齢と段階で、どのような身体活動をするべきかを、国民に明示している。子どもも大人もアスリートも、適切なタイミングで適切なトレーニングをすることで活動的になり、スポーツの達成度が高まるからだ。
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各年代を貫くキーワードは「楽しさ」と「やりがい」。
6歳までは活動的に遊びながら、基本的な動きを開発する。脳と筋肉の間に重要なつながりを築き、身体活動の基礎を身に付ける。
小学校低学年は楽しく包括的で適切なスポーツ活動や、歩く、走る、跳ぶ、投げる、泳ぐといった基本動作と能力(敏しょう性、バランス、スピードなど)を開発する。
小学校高学年は取り組む競技を固定せず、さまざまなスポーツを経験。勝敗にこだわらない試合で習得した技術を練習で磨き、自分自身の向上を実感することを楽しむ。トレーニング70%、試合30%のバランスを取り、スポーツが楽しいことを確認する時期にする。
中学生年代では心身を鍛えるためのトレーニングを重視。仲間の行動に多大な影響を受け、スポーツのルール、価値観などを学び、理解するために重要な段階と位置付ける。ここから非競争的なスポーツに参加したい人と競技性の高い人に分かれていく。
急速な身体的成長期でもあり、アスリートを目指す人は自身の肉体的、精神的、感情的な成熟度を判断しながら、定期的で周期的なトレーニングと試合を計画する。
高校生年代からは、競争するためのトレーニングに入る。多くても二つの専門競技に絞って、試合のための質の高いトレーニング環境の中で、高い強度で個人やポジションに特化して強化する。国際的な技術や能力も学び、定期的、計画的に心身を回復させながら、技術的・戦術的開発を始める。
19歳以降は、勝つためのトレーニングとなる。アスリートは特定の大会に向けてサポートを受けながら世界最高峰の選手たちと競い合う。
最終的には自身のスポーツ経験を生かし、生涯にわたり積極的に身体活動をし続けることを提唱している。
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指導者の在り方が問題となった高校サッカー部など、日本では大人が引き起こす不祥事が絶えない。体罰、勝利至上主義、長時間練習といったあしき風習は、指導者が子どもの時に経験したことが根源となっているに違いない。
この「負の連鎖」を断ち切るには、多種多様な活動の機会を与え、子どもたちが前向きにスポーツと関わる経験を積む必要がある。カナダのように具体的で体系的な活動指針とシステムを確立し、親や指導者を含めた全国民に浸透していくことが、スポーツの存在を高める道となる。