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第1回 焼け跡から生まれた思想
ETV「100分de名著」 吉本隆明の【共同幻想論】
(引用)
吉本を決定的に変えた戦争体験。それは「あらゆる価値観は信じるに足るものではありえない」という根源的な体験だった。昨日まで信じていたものがすべてひっくり返る混沌の中で、吉本が生みだした概念が「関係の絶対性」だ。一人でどれだけつきつめて考えぬき辿り着いた「正しさ」も間違う可能性がある。他者との関係性の中からしか「正しさ」は導き出せないのに人はそのことを忘却している……それが「関係の絶対性」だ。この概念によって、国家や宗教など何かを容易に信じ込んでしまう人間の性を吉本は浮き彫りにしていく。それが限度を超えていったとき、全体主義や国家の暴走が生じるというのだ。第一回は、吉本が著作を書く大きなきっかけとなった戦争体験の意味を紐解き、「共同幻想論」を今、なぜ読むべきかを深く考察する。
第2回 「対幻想」とはなにか
ETV「100分de名著」 吉本隆明の【共同幻想論】
(引用)
吉本は国家の起源を考える上でまず「対幻想」という概念を生み出した。人間には、他者と関係する場合に必ず「性」として関係する根源的な在り方がある。好いたり好かれたり、嫉妬したりされたり。それは男女の関係に限らない。あの上司が嫌いだ、この研究者とはそりが合わない等々、人間の関係性には、論理以前に必ず好悪の感情がまとわりつく。吉本はこれをエロス的な関係と呼び、そこから生まれる「対幻想」が、国家のような「共同幻想」が形成されるベースに存在するという。国家が単な装置ではなく、愛する対象になったり容易に相対化できないのは、こうした機序に由来するのだ。第二回は、「対幻想」という概念はどんなものかを読み解き、国家が成立する基盤となる人間の在り様に迫っていく。
【アマテラスの声】新谷良子
【スサノヲ・鳥御前の声】田丸裕臣
第3回 国家形成の物語
ETV「100分de名著」 吉本隆明の【共同幻想論】
(引用)
吉本は、家族や氏族集団から国家へと形成されていく機序が「古事記」の中に子細に書き込まれているという。それを分析していくと、国家形成は「罪の自覚」「倫理の発生」「法の形成」といったプロセスを経ることがわかる。例えばスサノオの神話には、「対幻想」と「共同幻想」に引き裂かれる人間の在り様が象徴的に表現され、人間社会が「血」や「性」でつながる氏族集団から「法」を基盤とする国家へと変貌するプロセスが辿れる。そこでは「対幻想」と「共同幻想」は不可分に共存している。第三回は、国家の起源や成立プロセスを解き明かし、人間がなぜ国家という桎梏から容易に自由になれないかを明らかにする。
【アマテラス・アメノウズメ・オキナガタラシ姫の声】新谷良子
【垂仁天皇・仲哀天皇・男神の声】田丸裕臣
第4回 「個人幻想」とはなにか
ETV「100分de名著」 吉本隆明の【共同幻想論】
(引用)
吉本は、国家の成立機序を解明した上でその国家をどう相対化し個人がどう自立できるかを問う。その際の鍵概念が「沈黙の有意味性」だ。吉本にとって「沈黙」とは国家を沈黙をもって凝視するということが含意される。声高に国家を批判することでは何も変わらない。庶民たちが日常に根をはりながら沈黙をもって問い始める「違和感」や「亀裂」。そうした日々の生活感に寄り添いながら思考を紡いでいくことにこそ人が自立して思考する拠点があるという。第四回は、私たちが国家を相対化し対峙する視座を持ちうるかや、真に自立して思考するとはどういうことかを、問い直していく。