部分引用
最終回は、1964年東京オリンピック招致の立役者である田畑政治(阿部サダヲ)を中心に、開会式から閉会式にいたるまでの大会期間を中心に描いた。
これまで登場してきたキャラクターも顔を揃え、第1回とも話がつながってくる、ファンには涙なくしては見ることのできない最終回だったが、宮藤が1年かけて視聴者に伝えようとしていたことがよくわかる、非常に興味深い最終回だった。
その象徴が、閉会式の様子を涙ながらに見る田畑の脳裏に浮かんだ、ある回想シーンである。
(中略)
嘉納は1940年東京大会に対する反対意見が強まる国際世論を変えるために、エジプト・カイロで行われるIOC総会に出席するのだが、その旅に田畑もついてきてほしいと語るが、田畑はそれを拒否。
激高しながら、スポーツが政治利用されてしまう現状では日本にオリンピックは開く資格はなく、ここはまず返上して、日本は平和になってからまた招致すればいいと叫ぶ。そして、逆に嘉納に対してこのように問いかけたのである。
「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本ですか?」
(中略)
結局1940年の東京五輪は開催されることなく、幻の五輪となった。
最終回で、幽霊となった嘉納に「これが、君が世界に見せたい日本かね?」と(1964年の東京五輪の閉会式について)改めて問いかけられた田畑は、今度は「はい」と、微笑みながら胸を張って答えるのであった。
最終回の大詰めとなる閉会式のシーンでこの回想シーンが挿入されたのは象徴的である。これは明らかに、宮藤官九郎の2020年東京五輪と現在の日本に対する痛烈な批評と捉えるべきだろう。
『いだてん』という作品はそれ以前にも、戦前の日本の歪なナショナリズム、負の部分に踏み込んできた。
関東大震災の朝鮮人虐殺を示唆するシーン、朝鮮半島出身であるにも関わらず、日本の植民地支配のため、日本代表として日の丸と君が代をバックにメダルをもらうことになったマラソンの孫基禎選手と南昇竜選手のエピソード、オリンピックの舞台となるはずだった国立競技場から学徒動員で戦地へ向かい死んでいった若者の悲劇、満州における中国人に対する加害行為……。
(中略)
しかも、『いだてん』が描いてきたこれらの問題はすべて、今、日本で起きている問題につながっている。
「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本か?」
この問いは、まさに来年2020年東京五輪を開催しようとしている現在の日本に向けられた問いだ。
(以下略)