2021年1月24日【核兵器禁止条約】発効を期して制作された映像 VIDEO 「被爆クスノキ」を題材に、長崎出身の歌手福山雅治さんが作った「クスノキ」 を『サウンドスケープ』にして核兵器廃絶を目指す高校生平和大使らが制作した リレー形式でメッセージを伝える YouTube 映像。「核問題は超、自分事」。高校生が平和を願い… 西日本新聞『春秋』-2021/1/23 10:40 【関連記事】「理想」を笑いますか? 永田健の時代斜め読み 西日本新聞-2021/1/24 11:00(引用) 史上初めて核兵器を全面的に禁止する「核兵器禁止条約」(核禁条約)が世界51カ国・地域の批准を得て、ついに発効した。 被爆者団体など核兵器廃絶に取り組んできた人々は「『核なき世界』の理想に一歩近づいた」と条約発効を歓迎している。 一方「核保有国が参加しない条約は無意味。核廃絶など理想主義者の夢物語だ」として、条約の意義を評価しない「現実主義者」たちも決して少なくない。 あなたはどちらのスタンスに共感しますか。 今回は「理想と現実」について考えてみた。 ◇ ◇ 核禁条約成立、発効のけん引役となったのが非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)だ。ICANはこの功績でノーベル平和賞を受賞している。 ICAN国際運営委員の川崎哲(あきら)さんに聞いた。 -「核禁条約は現実的ではない」という批判があります。どう考えますか。 「私も条約発効で核保有国がすぐに核兵器を破棄するなどとは考えていません。しかし『現実的でない』という人は、何をもって『現実』とするのか」 「核保有国が核を捨てようとせず、日本が『核の傘』の下にいるのも確かに現実ですが、核禁条約が国連で成立し、発効したというのも紛れもない現実です。世界の将来に向けて、どの現実にもっと発展してほしいのか。どの現実はなくなってほしいのか。そこは価値判断の問題なのです」 「専門家のおじさまが出てきて『安全保障の現実』などと語ると、聞いた方はシュンとしがちですが、そんな専門家たちも古い現実の前で思考停止しているだけではないでしょうか」 ◇ ◇ 川崎さんと話していると、世の中で一般に「現実主義」と呼ばれているものの多くは、実は「現状追認主義」にすぎないのではないか、と思えてくる。 「無差別大量殺りく兵器である核兵器など、本来ない方がいい」という価値観はほとんどの人に共通するはずだ。「あるべき未来」を簡単に諦め、あしき現状を追認するだけなら、その「現実主義」には一体何の意味があるのだろうか。 川崎さんは言う。 「核廃絶の最大の障壁は、実は私たちの心に潜む『世界は変えられない』という諦めなのではないか」 ◇ ◇ 昨今「理想」は風当たりが強い。特にネットでは顕著だ。核廃絶だけでなく、隣国との関係、死刑制度や憲法に至るまで、さまざまな分野で理想主義的な意見を表明しようものなら「現実を知らない」「頭の中がお花畑」とばかにされる。理想を笑うのは一見賢そうで、ネット議論ではマウント(優位)を取った気にもなれる。そんな攻撃的な冷笑主義がはびこる。 しかし、と私は思う。例えば米国でその昔「黒人も白人も平等であるべきだ」と最初に唱えた人は恐らく「夢でも見ているのか」と笑われただろう。女性の選挙権、労働者の権利、環境保護…現在は当たり前のさまざまな価値観が、昔は「現実的」ではなかった。 世の中を良い方に変える-そんな歴史の小さな主人公たちは皆、初めのうちは笑われていた。笑われても諦めなかった。そして笑う方が主人公になることは、今も昔も決してない。 (特別論説委員・永田健)
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