2011年8月17日(水)
【DIAMOND online】 (DOL) に興味深い記事が出ていたので引用します。
古くから現代の作曲家まで迷信にとらわれている「調性と独特の感情」についての
物理学者で音楽家のジョン・パウエル博士の論考である。
博士によれば、 最初に使うキー(長短の調)次第で、違った感情が生まれるという考えも間違いだ。 ベートーベンをはじめとして多くの作曲家は、特定のキーは独特の感情を引き起こすと思い込んでいる。だから、悲しい曲を作るときは、その特定のキーを使い、ロマンチックな曲のときは別の特定のキーを使った。他の人もそれに従った。
行進曲用のキー、ダンス用のキーという感じで作曲家が決めていったので、後世の作曲家もそれに従っただけだ。実際はどのキーからも始めることができ、あとはそれを上げたり下げたりするだけでいい。 とのことである。
【それぞれの半音の間の比率は完全に比例しているので、どの音を主音にして和音を作っても それぞれの響き方は単に音の高さの違いだけであって、「独特の感情を引き起こす」ことは 無い!】 という考え方のようである。
ベートーヴェンで言えば、交響曲第6番「田園」は、明るい雰囲気なので【ヘ長調】であり、 これが(快活な)ホ長調ではダメで、やはり【ヘ長調】でなければならなかった、 とか 交響曲第5番「運命」は、苦悩を示す【ハ短調】でなければならず、これを克服することで、 最も明朗な調整である【ハ長調】に第4楽章で突入するのである。
とか言う、説明は、全て無意味だという論調である。
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以下は、パウエル氏の「調性と独特の感情」の論考に対する JUNSKY の見解である。
バッハが【平均律】 を確立してからは、ある意味博士の解説は正解なのであるが、 多くの音楽家は賛成できないと言うであろう。
何しろ、この音楽の「調性と独特の感情」という迷信は、深く根付いているものだから。 ある意味、これは 「既成概念に捉われている」 とでも言う論考である。
バッハが【平均律】 を確立する前は、ハ長調(今のピアノの鍵盤の白鍵)の 【純正律音階】 が基本だったので、それぞれの半音の比率は、必ずしも同じではなかった。
したがって、ハ長調のドミソ(C・E・G)の和音と、ニ長調のドミソ(D・F♯・A)では 和音の主音と第3音・第5音の比率が同じではなかったのである。
同じく、ホ長調(E・G♯・H)、ヘ長調(F・A・C)、ト長調(G・H・D)・・・ それぞれのドミソの和音も個性があった。
ベートーヴェンの頃には、「平均律」はバッハによって定義付けられてから まだそれほど経っていなかったので、「調性と独特の感情」は残っていたのかも知れない。
また、弦楽器はいつも【純正律】で演奏できるので、【平均律】で割り切ってしまうのも 一面的な感じがする。
パウエル氏の議論の基本には【平均律】の固定観念があるような気がする。
******************* なお、パウエル氏の説明の中で、以下は初耳であり興味深かった。 現在コンサートで使われている標準的な音は、専門的な会合が何度も持たれた後、第二次世界大戦前夜の1939年にロンドンのBBCで開かれた専門家会合で決められたものだ。それ以前は、音の高さは国どころか、町によっても異なっていた。 1939年にBBCに集まった専門家たちはAの基本周波数を110ヘルツではなく、102ヘルツにすることもできたが、そうなっていたら今我々が聴く音楽はすべて少し低くなっていたわけだ。
ちなみに、現在我々が耳にするモーツァルトは、半音高い。しかし、われわれが彼の音楽に対して抱く感情がそれで変わるかと言えば、それは違う。感情はすべての人間に共通しているので、周波数は関係ない。
******************* ジョン・パウウェル(John Powell)
 クラッシック音楽を学んだ音楽家であると同時に、物理学者。シェフィールド大学で音楽音響学を、ノッティンガム大学とルレオ大学で物理学を教えている。科学的知識とユーモアのセンスを生かして音楽の秘密を分かりやすく解説した近著「How Music Works」(邦題「響きの科楽」(早川書房刊)は、欧米の音楽ファンの間で大きな反響を呼んだ。
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どうすればプロ級の演奏家になれる? 絶対音感の正体とは? 「響きの科楽」著者ジョン・パウエル博士が明かす あなたの知らない音楽の秘密 情報端末や電子楽器の普及で、我々の生活の中にますます深く入り込む音楽。聴くだけの人もいれば、楽器を手に取って自ら演奏したり、あるいはソフトウェアを使って作曲に挑戦する人も最近では増えていることだろう。そんな、人生に欠かせない音楽の原理を、科学的知識とユーモアのセンスを生かして楽しく分かりやすく論じ、欧米で注目を集めている学者がいる。物理学者で音楽家のジョン・パウエル博士だ。音楽の背景にある“科学”を知れば、音楽をよりいっそう楽しめると博士は熱弁をふるう。 (聞き手/ジャーナリスト 大野和基)
――音楽を雑音ではなく、音楽たらしめているものは何か?
耳の中には鼓膜があって、それはいわばトランポリンのようになっている。すべての音は鼓膜に届く空気で作られる圧力波からできている。その波が規則的なパターンになっており、かつ1秒間の振動数(周波数)が20ヘルツから20キロヘルツ(20000ヘルツ)の範囲であるかぎり、音符として聞こえる。
一方、圧力波が異なった方向にランダムな間隔で届くと、鼓膜は混乱し、雑音としてとらえる。これが、音楽の音と雑音との決定的な違いだ。
――音楽の音の高さ(ピッチ)は、たとえば「A 」(ラ)の基本周波数が110 ヘルツといった具合に周波数で示されるが、それはいつなぜ決められたのか?
良い質問だ。私自身、近著「How Music Works」(邦題『響きの科楽――ベートーベンからビートルズまで』早川書房刊)の取材活動の中で初めて知ったことだ。
じつは現在コンサートで使われている標準的な音は、専門的な会合が何度も持たれた後、第二次世界大戦前夜の1939年にロンドンのBBCで開かれた専門家会合で決められたものだ。それ以前は、音の高さは国どころか、町によっても異なっていた。
質問に戻れば、標準的な音が決められたのは、クラリネットやフルートのような管楽器の製造元が楽器の長さを知る必要があったからだ。短いものほどより高音になる。
かつては製造する国によってフルートやクラリネットの長さは微妙に異なっていたため、それぞれに違った音程を出していた。ギターやバイオリンの場合、弦を強くピンと張って、音程を変えることができるが、フルートやクラリネットにはそれができない。だから、音の周波数を決める必要があった。
1939年にBBCに集まった専門家たちはAの基本周波数を110ヘルツではなく、102ヘルツにすることもできたが、そうなっていたら今我々が聴く音楽はすべて少し低くなっていたわけだ。
ちなみに、現在我々が耳にするモーツァルトは、半音高い。しかし、われわれが彼の音楽に対して抱く感情がそれで変わるかと言えば、それは違う。感情はすべての人間に共通しているので、周波数は関係ない。
同様に、最初に使うキー(長短の調)次第で、違った感情が生まれるという考えも間違いだ。例えば、スティービー・ワンダーの曲で「I just called to say I love you」という歌詞を繰り返すところがあるが、途中で1音上げるとより気持ちが明るくなる。しかし、どの調から始めても途中で1音上げると同じ効果がある。最初の調は問題ではない。
――つまり、多くの作曲家が誤解をしているかもしれないということか。
そうだ。ベートーベンをはじめとして多くの作曲家は、特定のキーは独特の感情を引き起こすと思い込んでいる。だから、悲しい曲を作るときは、その特定のキーを使い、ロマンチックな曲のときは別の特定のキーを使った。他の人もそれに従った。
行進曲用のキー、ダンス用のキーという感じで作曲家が決めていったので、後世の作曲家もそれに従っただけだ。実際はどのキーからも始めることができ、あとはそれを上げたり下げたりするだけでいい。
――絶対音感については、小さい時に身につけるしかないのか。
そう思う。空手でもそうだが、6歳になる前に始めると、非常にうまくなる。音の差を覚えるだけではなく、音そのものを覚えてしまうからだ。
しかし、絶対音感は決定的に重要な音楽スキルではない。むしろミュージシャンが絶対音感を持っていると(柔軟性を失い)不便な場合もある。必要なことは音程の違いが分かることだ。今、「Happy Birthday to You」を私が歌うとすれば、どのキーからも始めることができる。繰り返しになるが、始めるキーは何でもいい。ピアノのキーボードにないキーでもいい。
また、余談になるが、もし人里離れた農家で育ったとして、その家に調律されていないピアノがあったとすると、そこで覚えた絶対音は、他の世界の絶対音とは異なるものになる。言い換えれば、モーツァルトの絶対音は彼の時代のもので、彼が育った場所のものだったのだ。
――大人になってからプロ級の演奏家になることは可能か。
こう答えよう。いかなる分野でもプロになるには1万時間の訓練が必要だ。7歳のときに始めると18歳のときまでには1万時間を訓練に費やすことができるが、35歳で始めると、1万時間の訓練を受けていたら70歳になってしまう。もちろん、もっと集中的に訓練を受ければ話は別だろうが、子どもがいたり、仕事があったりすれば、それはたやすいことではないだろう。
ただ、30歳から始めて、毎日2時間真剣に練習すれば、45歳くらいまでにコンサートクラスの演奏家になれる可能性はある。むろん、世界のトップ20人に入ることができるという話をしているわけではない。自分の町でモーツァルトのピアノ協奏曲を、入場料を払う聴衆の前で弾くピアニスト程度にはなれるかもしれないということだ。それでも凄いことだが。
――素人にも、他人を魅了するような曲を作ることは可能だと思うか。
それはどんな曲を作りたいかによるだろう。短い宗教的な曲ならば、運が良ければ作曲できるかもしれない。
もし作曲に関心があるのなら、まずフォークソング(民謡)から始めるといい。例えば、「さくら」を歌ったあとに、少しそれを変えてみるといい。そういうふうにして、試すだけで、自分が作曲に向いているかどうかわかる。
ただ、作曲には、音楽の技術的知識も必要だ。昔、自分が作曲した曲を講師に持って行ったら、これではうまくいかないと言われたことがあった。理由を聞くと、トランペット奏者がこの部分を演奏すると唇が麻痺すると言われた。高音を3分半も演奏し続けることはできない。もう一人トランペット奏者が必要だというわけだ。
また、シンフォニーを作曲しようと思えば、各楽器が何をできるか知らないといけない。特に音域について知らないと作曲のしようがない。またピッコロとギターがまったく合わないとか、ピッコロのときはクラリネットの音が聞こえなくなるとか、そういう基本的なことも知らないと作曲はできない。
――つまり、プロの作曲家になるには何か楽器を弾けることが必須条件ということか。
1950年代、ロンドンの作曲家でバラードをたくさん作った人がいたが、彼は何の楽器も弾けない上に、音符すら書けなかった。彼は口笛で曲を作り、楽譜が書ける友達の前で、それを披露して、その友達が楽譜に書いた。ただし、これは非常に稀なケースだ。作曲するには楽器が弾けたほうがいいのはいうまでもない。
――オーケストラでは音合わせでオーボエを使うが、どうしてなのか。
A(ラ)の音を持っていることと、オーボエの調律が一番難しいからだ。バイオリンは相対的に調律が簡単だから、オーケストラ全体の調律に使うことはない。だからこそ、オーボエのAの音は正しいAでなければならないのだ。
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